映画『サバイバルファミリー』ネタバレなし感想・評価|電気が消えたら、人間性も消える?笑って泣ける究極の防災シミュレーション【レビュー】
「水1本2500円!?」ある日突然、世界から電気が消えた。スマホも車も使えない中、東京から鹿児島へ自転車で脱出を図る一家の、過酷すぎる旅と絆の物語。
開始20分で「都会の脆さ」にゾッとする
もし、電気が完全に消えたらどうなるか? この映画は、そのシミュレーションとしての完成度が異常に高いです。 最初は「会社行かなくてラッキー」なんて思っていた主人公たちが、徐々に事態の深刻さに気づいていく過程が怖すぎる。 ATMが使えない、トイレが流れない、コンビニから食料が消える。 普段当たり前に享受しているインフラが停止した瞬間、東京という巨大都市がいかに「死の街」と化すか。
ホラー映画よりもよっぽど怖いです。 特に、高級マンションに住む彼らが、生きるためにプライドを捨てていく様子は、滑稽でありながら、明日は我が身と思わせる説得力があります。 笑いながら見ていたはずが、気づけば家の備蓄水を確認したくなりました。
「情けない父」を演じさせたら日本一
小日向文世さんが演じる父親が、本当に素晴らしい(褒めてます)。 仕事人間で、家庭を顧みず、いざという時に全く役に立たない。 「俺に任せろ」と言いながら、何もできない。 その空回り具合が、あまりにもリアルで痛々しい。
しかし、この映画の肝は、そんなダメ親父が、極限状態の中でどう変わっていくか、あるいは変わらないか、にあります。 かっこいいヒーローにはなれないけれど、家族のために泥水をすする覚悟を持つこと。 その「弱さの中にある強さ」が描かれる後半は、不覚にも涙腺が緩みました。 深津絵里さん演じる母親の、天然ボケだけど肝が据わっている感じも最高です。
徹底した「アナログ」撮影の迫力
この映画、CGをほとんど使っていないそうです。 高速道路を自転車で走るシーンや、荒廃した街並み。 それらが生み出す説得力は、作り物の映像とは段違いです。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 脚本・構成 | 安定感あり |
| サバイバル度 | ガチ |
| 家族ドラマ | 王道 |
【解説】 矢口史靖監督(『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』)らしい、悲壮感の中にあるユーモアのセンスが光ります。 豚を追いかけたり、川で魚を捕ったり。 現代人が原始的な生活に戻っていく様子を、あくまでエンターテインメントとして描いています。 ただ、中盤のロードムービー部分は少し中だるみを感じるかもしれません。 「これ、いつまで続くの?」という疲労感もまた、彼らの旅の追体験としては正しい演出なのかもしれませんが。
現代社会への痛烈な皮肉
作中、面白い対比が出てきます。 都会のエリート家族は飢え死にしそうになりますが、田舎で自給自足をしている人々は全く困っていない。 「お金」や「地位」といった価値観が、電気がなくなった瞬間に無意味になる。 代わりに価値を持つのは、「米」や「水」、そして「生活の知恵」。
この価値観の逆転が痛快です。 私たちは普段、いかに脆い土台の上で生活しているのか。 便利さと引き換えに、私たちは「生きる力」を失っているのではないか。 そんな文明批評的なメッセージを、説教臭くなく、コメディのオブラートに包んで届けてくれます。
デジタルネイティブ世代の「覚醒」
スマホがないと生きていけない子供たち。 最初は文句ばかり言っていますが、旅を通じて彼らが最も成長します。 地図を読めるようになり、火を起こせるようになり、生き物を捌けるようになる。
特に、葵わかなさん演じる娘が、最初はつけまつげを気にしていたのに、後半たくましくなっていく姿が良い。 「不便」こそが人を育てる最高の教育なのかもしれません。 この映画を見終わった後、子供と一緒にキャンプに行きたくなる、そんな「教育映画」だけれども「説教映画」ではないバランスが絶妙です。
結論:家族会議の前に見るべき一本
もし明日、電気が止まったら家族でどこに集合するか? そんな話を真剣にしたくなる映画です。 防災意識を高めるための教材としても優秀ですが、単純にコメディ映画としても上質。
派手なアクションや大どんでん返しはありませんが、じわじわと心に染みる良作です。 家族と見るもよし、一人で見て備えを見直すもよし。 ただし、空腹時に見ると、劇中で出てくる「ある質素な食事」がミシュラン三つ星より美味しそうに見えて辛いので注意してください。 観終わった後、スイッチを押せば電気がつくことに、心から感謝したくなります。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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