映画『マダム・ウェブ』
「マーベル映画」ではない。それを理解するのに116分かかる。虚無を見つめたい人専用。
予告編詐欺にも程がある
映画館を出た後、私はチケットの半券を見つめながら、しばらく動けませんでした。 「何を観せられたんだ?」という純粋な困惑と、込み上げてくる乾いた笑い。 予告編で見た、スパイダーウーマンたちが華麗に舞い、悪と戦うあのアクション大作はどこへ行ったのでしょうか。
本編を開けてみれば、コスチュームを着て戦うシーンは、なんと「未来のビジョン(予知夢)」の中だけ。 現実パートでは、ただの私服のお姉さんたちが、車で逃げ回るだけの地味なロードムービーが延々と続きます。 「いつ変身するんだ?」「そろそろ覚醒か?」と期待して待っていたら、エンドロールが流れ始めました。 (正直、途中で帰ろうかと思いました)
これは2時間のペプシコーラのCMですか?
この映画で最も脳裏に焼き付いているのは、緊迫したバトルシーンでも、感動的な人間ドラマでもありません。 これでもかというほど頻出する「ペプシコーラ」の看板です。 街角に、ダイナーに、そしてあろうことかクライマックスの決戦場所までもが、巨大なペプシの看板の上。
もはや映画のスポンサーへの忖度が露骨すぎて、逆に清々しいレベルです。 私はヒーロー映画を観に来たはずなのに、見終わった後に残ったのは「コーラ飲みたい」という感想だけでした。 これは映画というフォーマットを使った、極めて高価で質の悪いコマーシャルです。
脚本が「AIの書き損じ」レベル
さて、ここからは怒りを通り越して、この奇妙な事故物件を冷静に解剖していきましょう。 まず致命的なのが脚本です。 主人公キャシーの能力「未来予知」の使い方が、あまりにも雑でご都合主義的です。
危機が迫ると予知夢を見る→「危ない!」と叫んで回避する。 この繰り返して緊張感が生まれるはずがありません。 なぜなら、失敗しても「今の予知だったからノーカン」で済まされるからです。 ゲームで言えば、常にクイックセーブ&ロードを繰り返しているようなもの。 そこにカタルシスなど存在しません。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 脚本 | 破綻している |
| アクション | ほぼ無し |
| 虚無感 | 測定不能 |
【解説】 敵役のエゼキエルも酷い。 「将来自分を殺すかもしれないから、今のうちに殺す」という動機は分かりますが、その行動原理があまりに短絡的で、スパイダーマンのような能力を持っているのに、やることなすこと全てが間抜けです。 天井を這い回るシーンのシュールさは、ある意味で必見かもしれません(笑っていいのか悩みますが)。
視聴後に残る「強烈な虚無」
見終わった後、私を襲ったのは怒りではなく、深い虚無感でした。 「スパイダーマン」という世界的なIPを使い、優秀なキャストを集め、それなりの予算をかけて、なぜこんなものが生まれてしまったのか。
ソニー・ピクチャーズは『スパイダーバース』で革新的な映像体験を提供した一方で、実写のスパイダーマン・ユニバース(SSU)では迷走を続けています。 『モービウス』の時も感じましたが、本作はその比ではありません。 「とりあえずスパイダーマン関連のキャラを出しておけば客は来るだろう」という、制作側の透けた下心が、作品全体に薄気味悪い空気となって漂っています。
編集とテンポの「生理的な気持ち悪さ」
映像演出についても触れねばなりません。 特に、主人公が予知能力を発動する際の演出。 画面がズームイン・ズームアウトを繰り返し、フォーカスがぼやける演出が多用されるのですが、これがシンプルに「酔い」ます。
視覚的なカッコよさよりも、生理的な不快感が勝る。 そして、シーンとシーンの繋ぎが唐突で、まるでバラバラに撮影した素材を無理やりつなぎ合わせたかのような違和感があります。 この映画全体のリズムの悪さが、観客の集中力を容赦なく削いでいきます。 開始1時間で、私は時計を3回見ました。
ソニー・ユニバースの未来への不安
本作は、将来的にスパイダーマンと繋がる(かもしれない)重要な位置付けだったはずです。 しかし、この出来栄えでは、今後の展開に期待しろという方が無理な話です。 劇中で「責任重大な力には…」というお馴染みのフレーズをもじった台詞が出てきますが、制作陣こそ「映画を作る責任」について考え直すべきでしょう。
関連作品とのリンクも中途半端で、ピーター・パーカー(スパイダーマン)の誕生にまつわるエピソードも、取ってつけたような扱いです。 ファンサービスとしても機能していない、誰得なのか分からない映画。 それが『マダム・ウェブ』です。
結論:ダコタ・ジョンソンのPVとして観るなら
主演のダコタ・ジョンソンは、この惨状の中でも美しく、アンニュイな魅力を放っています。 彼女のファンが、彼女の顔面を愛でるための環境映像として観るなら、ギリギリ許容範囲かもしれません。 ただし、音量はミュートでいいでしょう。
12点。 この点数は全て、ダコタ・ジョンソンの美しさと、ペプシコーラへの宣伝効果に対するものです。 映画ファンとしての私は、この時間を返してほしいと切に願います。 もし金曜ロードショーで放送されても、チャンネルを変えて寝た方が、有意義な人生を送れるはずです。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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