HOME/CINEMA/ 2025-12-26

映画『ラバー』ネタバレなし感想・評価|殺人タイヤが砂漠を転がる。それ以外に何の説明がいる?【レビュー】

映画『ラバー』ネタバレなし感想・評価。主人公は「タイヤ」。念力で人間の頭を吹き飛ばす、前衛的すぎるロードムービー。意味を求めたら負け。これは観る人への挑戦状だ。

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SCORE
RANKB

60秒で結論買うべき?観るべき?

GOOD

「タイヤが可愛い」と思えてくる自分に恐怖する

BAD

「No Reason(理由はない)」を許容できないと、ただの拷問時間

冒頭の宣言:「理由はない(No Reason)」

この映画は、観客に対する宣戦布告から始まります。

警官がカメラに向かって語りかけます。 「E.T.はなぜ茶色い? 理由はない」 「『戦場のピアニスト』の主人公はなぜ隠れて生活する? 理由はない」

そして高らかに宣言します。 「この映画は『理由はない』へのオマージュである」と。

つまり、「なんでタイヤが動くの?」「なんでタイヤが超能力使えるの?」 といった疑問を持つこと自体が、この映画ではナンセンスなのです。

このルールを受け入れられない人は、 開始10分でテレビを消すことになるでしょう。 逆に、これを受け入れられた人だけが、 この奇妙な映像トリップに参加する資格を得るのです。

タイヤの「演技力」に脱帽

主人公の名前はロバート。 砂漠に捨てられた古タイヤです。

彼はある日、突然覚醒し、自力で立ち上がり、転がり始めます。 この「立ち上がる」シーンの挙動が、妙にリアル。 よろよろとバランスを取り、一度倒れ、また起き上がる。 まるで生まれたての子鹿のような愛らしさがあります。

そして彼は、自分の前に立ちはだかる物を破壊し始めます。 最初は空き瓶、次はサソリ、そして人間。

タイヤが「怒っている」ように見える。 タイヤが「欲情している」ように見える。 ただのゴムの塊なのに、そこに感情を読み取ってしまう。

これは、観る側の想像力を試す実験映像なのかもしれません。 (シャワーを浴びる女性を覗き見するタイヤの姿は、完全に変質者のそれでした)

BEYOND THE 60 SECONDSここから先は、深掘りレビュー。
Technical Review

映画内映画というメタ構造の罠

この作品の厄介なところは、 「タイヤの物語」を遠くから双眼鏡で眺める「観客たち」が登場する点です。

砂漠の真ん中に集められた彼らは、私たち視聴者の代弁者です。 「つまんねえな」 「もっと派手なことやれよ」 「意味わかんねえよ」

彼らは文句を垂れ流しながら、タイヤの殺戮劇を鑑賞します。 そして、徐々に彼ら自身も物語に巻き込まれ、理不尽な死を迎えていく。

監督は、 「B級映画に文句を言いながら観ているお前らも、同罪だぞ」 と嘲笑っているのかもしれません。 非常に性格の悪い(褒め言葉)構成です。

キャラクター役割死亡率
ロバート(タイヤ)主人公(殺人鬼)不死身?
観客たち視聴者のメタファー★★★★★
警官狂言回し★★★☆☆

【解説】 劇中の「観客たち」には、毒入りの七面鳥が振る舞われます。 それを食べて次々と死んでいく姿は、 「質の悪い映画(毒)を消費させられる観客」への皮肉にも見えます。 唯一生き残った車椅子の男が、最後まで文句を言い続けるラストも象徴的です。

頭部破壊シーンの美学

ロバートの武器は「念力」です。 タイヤを小刻みに震わせると、 対象物の頭が「パンッ!」と破裂します。

この破裂エフェクトが、妙に美しい。 『スキャナーズ』へのオマージュを感じさせる、 昔ながらの特殊効果による頭部爆発。

CG全盛の時代に、あえて実写の爆破にこだわる。 そこに、監督の歪んだこだわりを感じます。

タイヤが震える ↓ 不穏な音が鳴る ↓ ドカン!

この単純な繰り返しのリズムが、 だんだん癖になってくるから不思議です。

結論:アートかゴミか、決めるのはあなた

『ラバー』は、 「シュールレアリスムのアート映画」として観れば傑作かもしれません。 しかし、「モンスターパニック映画」として観れば、間違いなくゴミです。

タイヤが転がる映像を、延々と見せられる82分間。 それを「退屈」と感じるか、 「禅の境地」と感じるか。

私は正直、途中で3回くらい寝落ちしそうになりました。 でも、観終わった後に、 道端のタイヤを見て「おっ」と反応してしまう自分がいました。

あなたの感性が正常か異常か。 それを測るリトマス試験紙として、この映画を活用してみてください。

作品情報

時間82分
視聴難易度高い
家族向け要確認
配信U-NEXT
小林 祐太
WRITTEN BY

小林 祐太

TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。

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