映画『コアラ課長』ネタバレなし感想・評価|殺人容疑者はコアラ。カツ丼を食うコアラに戦慄するサスペンス【レビュー】
映画『コアラ課長』ネタバレなし感想・評価。漬物会社のエリート課長はコアラだった。シュールな絵面と本格的なミステリーが融合した、河崎実監督の野心作。コアラのハードボイルドな日常に酔いしれろ。
60秒で結論買うべき?観るべき?
GOOD
スーツを着たコアラが取調室でカツ丼を食べる、その絵面の破壊力
BAD
ミステリー部分が意外としっかりしていて、逆に眠くなる瞬間がある
「なぜコアラ?」その問いは、開始3秒で封殺される
普通なら説明が必要です。 「なぜ、漬物会社の課長がコアラなのか?」 「なぜ、周囲の人間はそれを受け入れているのか?」 しかし、この映画はそんな野暮な疑問を一切受け付けません。 当たり前のようにスーツを着て、当たり前のように部下に指示を出し、当たり前のように営業会議に出るコアラ。 その圧倒的な「日常感」に、こちらの常識がゲシュタルト崩壊を起こします。
気味が悪いのは、コアラの動きが無駄にリアルなことです。 着ぐるみ特有のモッサリ感がなく、妙に人間臭い所作。 タバコをふかし、バーでグラスを傾けるその姿は、高倉健も真っ青のハードボイルドです。 「あれ? コアラってカッコいいのでは?」 そんな錯覚を抱いた時点で、あなたはもう監督の術中に落ちています。
取調室の「カツ丼」が、映画史に残る名シーンに
本作のハイライトは、なんといっても取調室のシーンでしょう。 殺人容疑をかけられたコアラ課長が、刑事からカツ丼を差し入れられる。 刑事ドラマのド定番シチュエーションですが、被疑者がコアラであるという一点だけで、 それは前衛芸術の域に達します。
鼻先に米粒をつけながら、無言でカツ丼を貪るコアラ。 その哀愁と滑稽さが入り混じった背中は、一度見たら網膜に焼き付いて離れません。 笑っていいのか、可哀想と思うべきなのか。 感情の処理が追いつかないまま、ただただコアラの咀嚼音を聞かされる時間。 これは拷問でしょうか、それとも癒やしでしょうか。 間違いなく言えるのは、このシーンを見るためだけに、85分を費やす価値があるということです。
ジャンルの壁を破壊する「ごった煮」の美学
河崎実監督の作品はいつもそうですが、本作もジャンルの闇鍋状態です。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| コアラの可愛さ | 微妙に怖い |
| ミステリー度 | 意外と本格派 |
| オチの衝撃度 | 開いた口が塞がらない |
【解説】 基本はサスペンスです。 恋人が殺され、記憶を失った主人公が真犯人を追う。 『羊たちの沈黙』や『氷の微笑』を意識したような演出もあり、 映像のトーンだけ見れば、重厚なサイコ・スリラーに見えなくもありません。 しかし、画面の中央には常にコアラがいます。 この異物感が、緊張感を極限まで高めると同時に、弛緩させます。 さらに、後半にはカンフーアクションや、巨大化(お約束)といった要素まで投入され、 最終的には「考えるな、感じろ」という領域へ突入します。 一つの映画でこれだけのジャンルを横断できるのは、主人公がコアラだからこそ許される特権でしょう。
視聴後の「コアラ観」の変容
動物園でコアラを見た時、もう以前のような純粋な目では見られなくなります。 「あいつ、実は中に小さなおっさんが入っているんじゃないか?」 「笹を食べているふりをして、心の中では会社の愚痴を言っているんじゃないか?」 そんな疑心暗鬼に囚われることでしょう。
この映画は、コアラという動物が持つ「可愛らしさ」を剥ぎ取り、 その下にある(かもしれない)「中年サラリーマンの悲哀」を暴き出しました。 それは、現代社会で仮面を被って生きる私たち自身の姿の投影……なのかもしれません。 いや、やっぱりただのコアラです。 深読みしようとすればするほど、泥沼にハマる。 それこそが、この映画の持つ魔力なのです。
野村宏伸の「一人二役」という狂気
主演の野村宏伸さんが、コアラ課長を追い詰める刑事役と、 (声の出演やスーツアクターとして?)コアラ課長本人の二役を演じている点も見逃せません。 かつてトレンディドラマでならした彼が、 コアラに向かって「吐け!お前がやったんだろ!」と怒鳴り散らす姿。 そこには、役者としてのプライドをかなぐり捨てた、凄まじい覚悟を感じます。
特に、コアラと刑事が対峙するシーンにおける、一人芝居のテンションの高さ。 彼は一体、何を相手に演技をしているのか。 撮影現場のシュールな空気を想像するだけで、ご飯が三杯いけます。 彼の大真面目な演技がなければ、この映画は単なるコントで終わっていたでしょう。 B級映画を成立させるためには、演じる側の「狂気」にも似た真剣さが必要不可欠であることを、 彼は身を持って証明してくれました。
結論:コアラに癒やされたいなら、動物園に行け
「可愛いコアラの映画」を期待して子供に見せると、トラウマになります。 これは、大人のための、大人による、大人のふざけた寓話です。
日常に退屈している人、シュールな笑いを求めている人。 そして、人生の不条理を笑い飛ばしたい人。 そんなあなたには、コアラ課長の名刺を受け取る資格があります。 54点。 傑作とは言いませんが、あなたの記憶の片隅に、 あの無表情なコアラの顔が一生住み着くことになるでしょう。 覚悟ができたら、再生ボタンを押してください。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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