HOME/CINEMA/ 2025-12-31

映画『コアラ課長』ネタバレなし感想・評価|殺人容疑者はコアラ。カツ丼を食うコアラに戦慄するサスペンス【レビュー】

映画『コアラ課長』ネタバレなし感想・評価。漬物会社のエリート課長はコアラだった。シュールな絵面と本格的なミステリーが融合した、河崎実監督の野心作。コアラのハードボイルドな日常に酔いしれろ。

0
SCORE
RANKC

60秒で結論買うべき?観るべき?

GOOD

スーツを着たコアラが取調室でカツ丼を食べる、その絵面の破壊力

BAD

ミステリー部分が意外としっかりしていて、逆に眠くなる瞬間がある

「なぜコアラ?」その問いは、開始3秒で封殺される

普通なら説明が必要です。 「なぜ、漬物会社の課長がコアラなのか?」 「なぜ、周囲の人間はそれを受け入れているのか?」 しかし、この映画はそんな野暮な疑問を一切受け付けません。 当たり前のようにスーツを着て、当たり前のように部下に指示を出し、当たり前のように営業会議に出るコアラ。 その圧倒的な「日常感」に、こちらの常識がゲシュタルト崩壊を起こします。

気味が悪いのは、コアラの動きが無駄にリアルなことです。 着ぐるみ特有のモッサリ感がなく、妙に人間臭い所作。 タバコをふかし、バーでグラスを傾けるその姿は、高倉健も真っ青のハードボイルドです。 「あれ? コアラってカッコいいのでは?」 そんな錯覚を抱いた時点で、あなたはもう監督の術中に落ちています。

取調室の「カツ丼」が、映画史に残る名シーンに

本作のハイライトは、なんといっても取調室のシーンでしょう。 殺人容疑をかけられたコアラ課長が、刑事からカツ丼を差し入れられる。 刑事ドラマのド定番シチュエーションですが、被疑者がコアラであるという一点だけで、 それは前衛芸術の域に達します。

鼻先に米粒をつけながら、無言でカツ丼を貪るコアラ。 その哀愁と滑稽さが入り混じった背中は、一度見たら網膜に焼き付いて離れません。 笑っていいのか、可哀想と思うべきなのか。 感情の処理が追いつかないまま、ただただコアラの咀嚼音を聞かされる時間。 これは拷問でしょうか、それとも癒やしでしょうか。 間違いなく言えるのは、このシーンを見るためだけに、85分を費やす価値があるということです。

BEYOND THE 60 SECONDSここから先は、深掘りレビュー。
Technical Review

ジャンルの壁を破壊する「ごった煮」の美学

河崎実監督の作品はいつもそうですが、本作もジャンルの闇鍋状態です。

評価項目評価
コアラの可愛さ微妙に怖い
ミステリー度意外と本格派
オチの衝撃度開いた口が塞がらない

【解説】 基本はサスペンスです。 恋人が殺され、記憶を失った主人公が真犯人を追う。 『羊たちの沈黙』や『氷の微笑』を意識したような演出もあり、 映像のトーンだけ見れば、重厚なサイコ・スリラーに見えなくもありません。 しかし、画面の中央には常にコアラがいます。 この異物感が、緊張感を極限まで高めると同時に、弛緩させます。 さらに、後半にはカンフーアクションや、巨大化(お約束)といった要素まで投入され、 最終的には「考えるな、感じろ」という領域へ突入します。 一つの映画でこれだけのジャンルを横断できるのは、主人公がコアラだからこそ許される特権でしょう。

視聴後の「コアラ観」の変容

動物園でコアラを見た時、もう以前のような純粋な目では見られなくなります。 「あいつ、実は中に小さなおっさんが入っているんじゃないか?」 「笹を食べているふりをして、心の中では会社の愚痴を言っているんじゃないか?」 そんな疑心暗鬼に囚われることでしょう。

この映画は、コアラという動物が持つ「可愛らしさ」を剥ぎ取り、 その下にある(かもしれない)「中年サラリーマンの悲哀」を暴き出しました。 それは、現代社会で仮面を被って生きる私たち自身の姿の投影……なのかもしれません。 いや、やっぱりただのコアラです。 深読みしようとすればするほど、泥沼にハマる。 それこそが、この映画の持つ魔力なのです。

野村宏伸の「一人二役」という狂気

主演の野村宏伸さんが、コアラ課長を追い詰める刑事役と、 (声の出演やスーツアクターとして?)コアラ課長本人の二役を演じている点も見逃せません。 かつてトレンディドラマでならした彼が、 コアラに向かって「吐け!お前がやったんだろ!」と怒鳴り散らす姿。 そこには、役者としてのプライドをかなぐり捨てた、凄まじい覚悟を感じます。

特に、コアラと刑事が対峙するシーンにおける、一人芝居のテンションの高さ。 彼は一体、何を相手に演技をしているのか。 撮影現場のシュールな空気を想像するだけで、ご飯が三杯いけます。 彼の大真面目な演技がなければ、この映画は単なるコントで終わっていたでしょう。 B級映画を成立させるためには、演じる側の「狂気」にも似た真剣さが必要不可欠であることを、 彼は身を持って証明してくれました。

結論:コアラに癒やされたいなら、動物園に行け

「可愛いコアラの映画」を期待して子供に見せると、トラウマになります。 これは、大人のための、大人による、大人のふざけた寓話です。

日常に退屈している人、シュールな笑いを求めている人。 そして、人生の不条理を笑い飛ばしたい人。 そんなあなたには、コアラ課長の名刺を受け取る資格があります。 54点。 傑作とは言いませんが、あなたの記憶の片隅に、 あの無表情なコアラの顔が一生住み着くことになるでしょう。 覚悟ができたら、再生ボタンを押してください。

作品情報

時間85分
視聴難易度低い
家族向け推奨
配信Amazon Prime
小林 祐太
WRITTEN BY

小林 祐太

TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。

この記事をシェアする