HOME/CINEMA/ 2025-12-31

映画『いかレスラー』ネタバレなし感想・評価|着ぐるみのイカがリングで舞う。シュールすぎて脳が追いつかない怪作【レビュー】

映画『いかレスラー』ネタバレなし感想・評価。不治の病を治すためにイカになったプロレスラー。シュールな絵面と無駄に熱いスポ根ドラマのギャップに、脳がバグるカルト的怪作。

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SCORE
RANKB

60秒で結論買うべき?観るべき?

GOOD

「イカがプロレスをする」という一点突破の破壊力

BAD

真面目なシーンほど笑いがこみ上げてしまい、感情移入が不可能

画面に映る「違和感」が仕事をしすぎている

映画が始まってすぐ、私たちの常識は粉々に砕け散ります。 リングの上に立っているのは、どう見ても「着ぐるみ」です。 ドン・キホーテのパーティーグッズ売り場にいそうな、テカテカしたイカの着ぐるみ。 それ以上でもそれ以下でもありません。

しかし、恐ろしいことに、劇中の登場人物たちは誰一人として笑っていません。 「ああ、なんて悲しい運命なんだ」と言わんばかりのシリアスな顔で、 そのイカを見つめ、涙を流し、激論を交わしています。 この「絵面の圧倒的なマヌケさ」と「ストーリーの過剰なシリアスさ」の乖離。 この温度差だけで風邪を引きそうになります。 笑っていいのか、感動すべきなのか。 観客の感情の置き所を迷子にさせる、高度な放置プレイがここにあります。

プロレスファンほど、腹筋が崩壊する

本作の主演は、本職のプロレスラーである西村修さんです。 無我の精神を持つ彼が、なぜイカの着ぐるみを着ることを承諾したのか。 その謎は永遠に解けそうもありませんが、試合シーンのクオリティだけは無駄に高いです。

コブラツイスト、卍固め。 イカの姿で繰り出される本格的なクラシカル・レスリング。 触手が邪魔で技がかけにくそうなのに、なぜか綺麗に決まっている。 そのシュールな光景を見ていると、 「プロレスとは何か?」「強さとは何か?」という哲学的な問いすら浮かんできます(嘘です)。 ただただ、「西村さん、何やってるんですか」というツッコミが口をついて出るだけです。 しかし、その真剣さが、一周回って感動を呼ぶ……ことはありませんが、爆笑は約束されています。

BEYOND THE 60 SECONDSここから先は、深掘りレビュー。
Technical Review

河崎実監督という「確信犯」の犯行現場

本作を監督したのは、「バカ映画の巨匠」こと河崎実氏。 彼の作品群の中でも、本作の破壊力は群を抜いています。

評価項目評価
イカの質感ビニール感満載
役者の演技無駄に重厚
脚本の狂気Sランク

【解説】 「不治の病を治すためにイカになる」という導入からして、常人の発想ではありません。 普通なら「CGでリアルなイカを表現しよう」となるところを、あえて着ぐるみを選ぶ。 そのアナログな質感が、逆に生々しい(?)存在感を生んでいます。 また、ライバルとして登場する「たこレスラー」や「しゃこボクサー」など、 海鮮のラインナップが増えるたびに、スクリーン上のカオス度は指数関数的に上昇します。 これら全てを「大真面目なスポ根ドラマ」としてパッケージングする手腕。 これはもはや、映画というフォーマットを使ったテロリズムです。 観客は、監督の仕掛けた「ナンセンスの罠」にまんまとハマり、最後まで脱出することはできません。

視聴後に襲う「イカへの親近感」

見終わった後、スーパーの鮮魚コーナーでイカを見た時、 今までとは違う感情が湧き上がってくることに気づくでしょう。 「彼もまた、何かを背負って戦っているのかもしれない……」 そんな妄想に取り憑かれたら、あなたはもうこの映画の毒に侵されています。

イカ焼き、イカリング、イカの塩辛。 それらが単なる食材ではなく、哀愁漂うアスリートの成れの果てに見えてくる。 日常生活の解像度が(悪い方向に)上がる、恐ろしい副作用があります。 誰かに「最近観た面白い映画ある?」と聞かれても、 「いかレスラー」と答える勇気はなかなか出ないでしょう。 しかし、心の中では「あのイカ、良かったな」と反芻してしまう。 そんな、誰にも言えない秘密の関係をイカと結ぶことになります。

「異形」であることの悲哀と、愛の物語

ふざけた設定の裏に隠されがちですが、 本作は「異形となってしまった男の悲哀」を描く物語でもあります。 愛する人の前で、人間の姿に戻れない絶望。 それでもリングに立ち続けることでしか、自分を証明できない男の性(サガ)。 『美女と野獣』や『オペラ座の怪人』に通じるテーマが、 イカの着ぐるみというフィルターを通して描かれています。

……というのは深読みしすぎでしょうか。 いや、あえてそう読み解くことで、この映画の味わいは深まります。 ラストシーン、イカと人間が織りなす愛の結末。 それは、種族の壁を超えた究極の愛の形なのか、それとも単なる悪ふざけの極致なのか。 その答えは、観た人それぞれの心の中にしかありません。 ただ一つ言えるのは、あんなにヌルヌルしていそうなラブシーンは、 映画史を探しても他にはないということです。 そこに「美しさ」を見出せたなら、あなたの感性はかなり鋭い(あるいは壊れている)と言えるでしょう。

結論:常識を脱ぎ捨てて、リングに上がれ

「意味のある映画が観たい」「感動して泣きたい」。 そんな真っ当な動機でこの映画を選んではいけません。 時間の無駄です。

しかし、「疲れていて何も考えたくない」「最近、常識に縛られすぎている」。 そんなあなたには、劇薬として機能します。 イカがプロレスをする。 その事実に比べれば、あなたの悩みなんてちっぽけなものです。 72点。 B級映画としては傑作の部類に入りますが、人としての尊厳を守りたいなら、一人で観ることを強くお勧めします。 見終わった後は、無性にイカ焼きが食べたくなります。

作品情報

時間95分
視聴難易度低い
家族向け推奨
配信U-NEXT
小林 祐太
WRITTEN BY

小林 祐太

TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。

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