映画『いかレスラー』ネタバレなし感想・評価|着ぐるみのイカがリングで舞う。シュールすぎて脳が追いつかない怪作【レビュー】
映画『いかレスラー』ネタバレなし感想・評価。不治の病を治すためにイカになったプロレスラー。シュールな絵面と無駄に熱いスポ根ドラマのギャップに、脳がバグるカルト的怪作。
画面に映る「違和感」が仕事をしすぎている
映画が始まってすぐ、私たちの常識は粉々に砕け散ります。 リングの上に立っているのは、どう見ても「着ぐるみ」です。 ドン・キホーテのパーティーグッズ売り場にいそうな、テカテカしたイカの着ぐるみ。 それ以上でもそれ以下でもありません。
しかし、恐ろしいことに、劇中の登場人物たちは誰一人として笑っていません。 「ああ、なんて悲しい運命なんだ」と言わんばかりのシリアスな顔で、 そのイカを見つめ、涙を流し、激論を交わしています。 この「絵面の圧倒的なマヌケさ」と「ストーリーの過剰なシリアスさ」の乖離。 この温度差だけで風邪を引きそうになります。 笑っていいのか、感動すべきなのか。 観客の感情の置き所を迷子にさせる、高度な放置プレイがここにあります。
プロレスファンほど、腹筋が崩壊する
本作の主演は、本職のプロレスラーである西村修さんです。 無我の精神を持つ彼が、なぜイカの着ぐるみを着ることを承諾したのか。 その謎は永遠に解けそうもありませんが、試合シーンのクオリティだけは無駄に高いです。
コブラツイスト、卍固め。 イカの姿で繰り出される本格的なクラシカル・レスリング。 触手が邪魔で技がかけにくそうなのに、なぜか綺麗に決まっている。 そのシュールな光景を見ていると、 「プロレスとは何か?」「強さとは何か?」という哲学的な問いすら浮かんできます(嘘です)。 ただただ、「西村さん、何やってるんですか」というツッコミが口をついて出るだけです。 しかし、その真剣さが、一周回って感動を呼ぶ……ことはありませんが、爆笑は約束されています。
河崎実監督という「確信犯」の犯行現場
本作を監督したのは、「バカ映画の巨匠」こと河崎実氏。 彼の作品群の中でも、本作の破壊力は群を抜いています。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| イカの質感 | ビニール感満載 |
| 役者の演技 | 無駄に重厚 |
| 脚本の狂気 | Sランク |
【解説】 「不治の病を治すためにイカになる」という導入からして、常人の発想ではありません。 普通なら「CGでリアルなイカを表現しよう」となるところを、あえて着ぐるみを選ぶ。 そのアナログな質感が、逆に生々しい(?)存在感を生んでいます。 また、ライバルとして登場する「たこレスラー」や「しゃこボクサー」など、 海鮮のラインナップが増えるたびに、スクリーン上のカオス度は指数関数的に上昇します。 これら全てを「大真面目なスポ根ドラマ」としてパッケージングする手腕。 これはもはや、映画というフォーマットを使ったテロリズムです。 観客は、監督の仕掛けた「ナンセンスの罠」にまんまとハマり、最後まで脱出することはできません。
視聴後に襲う「イカへの親近感」
見終わった後、スーパーの鮮魚コーナーでイカを見た時、 今までとは違う感情が湧き上がってくることに気づくでしょう。 「彼もまた、何かを背負って戦っているのかもしれない……」 そんな妄想に取り憑かれたら、あなたはもうこの映画の毒に侵されています。
イカ焼き、イカリング、イカの塩辛。 それらが単なる食材ではなく、哀愁漂うアスリートの成れの果てに見えてくる。 日常生活の解像度が(悪い方向に)上がる、恐ろしい副作用があります。 誰かに「最近観た面白い映画ある?」と聞かれても、 「いかレスラー」と答える勇気はなかなか出ないでしょう。 しかし、心の中では「あのイカ、良かったな」と反芻してしまう。 そんな、誰にも言えない秘密の関係をイカと結ぶことになります。
「異形」であることの悲哀と、愛の物語
ふざけた設定の裏に隠されがちですが、 本作は「異形となってしまった男の悲哀」を描く物語でもあります。 愛する人の前で、人間の姿に戻れない絶望。 それでもリングに立ち続けることでしか、自分を証明できない男の性(サガ)。 『美女と野獣』や『オペラ座の怪人』に通じるテーマが、 イカの着ぐるみというフィルターを通して描かれています。
……というのは深読みしすぎでしょうか。 いや、あえてそう読み解くことで、この映画の味わいは深まります。 ラストシーン、イカと人間が織りなす愛の結末。 それは、種族の壁を超えた究極の愛の形なのか、それとも単なる悪ふざけの極致なのか。 その答えは、観た人それぞれの心の中にしかありません。 ただ一つ言えるのは、あんなにヌルヌルしていそうなラブシーンは、 映画史を探しても他にはないということです。 そこに「美しさ」を見出せたなら、あなたの感性はかなり鋭い(あるいは壊れている)と言えるでしょう。
結論:常識を脱ぎ捨てて、リングに上がれ
「意味のある映画が観たい」「感動して泣きたい」。 そんな真っ当な動機でこの映画を選んではいけません。 時間の無駄です。
しかし、「疲れていて何も考えたくない」「最近、常識に縛られすぎている」。 そんなあなたには、劇薬として機能します。 イカがプロレスをする。 その事実に比べれば、あなたの悩みなんてちっぽけなものです。 72点。 B級映画としては傑作の部類に入りますが、人としての尊厳を守りたいなら、一人で観ることを強くお勧めします。 見終わった後は、無性にイカ焼きが食べたくなります。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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