映画『温泉シャーク』ネタバレなし感想・評価|温泉からサメ?日本が世界に誇る「バカ映画」の極北【レビュー】
映画『温泉シャーク』ネタバレなし感想・評価。「温泉からサメが出る」という一発ネタを、狂気じみた熱量で映像化した話題作。ツッコミどころ満載だが、なぜか嫌いになれない愛すべきB級映画。
開始5分で、IQを溶かす覚悟が決まる
再生ボタンを押した瞬間、襲ってくるのは「安っぽさ」という名の津波です。 学芸会のような演技、合成感丸出しの背景、そして物理法則を無視したサメの動き。 「あ、これアカンやつだ」と本能が警鐘を鳴らしました。
しかし、不思議なことに、5分も経つと視界が歪み始めます。 「温泉からサメが出る」という、小学生が休み時間に考えたような設定を、 大人たちが真剣な顔で映像化している姿に、ある種の感動すら覚えてしまうのです。 「バカだなぁ」と笑っているうちに、いつの間にか彼らのペースに巻き込まれている。 これは映画ではありません。 「大人の悪ふざけ」を、金と時間をかけて見せつけられる、高度なエンターテインメントです。
中盤、意外にも「熱い」展開に裏切られる
ただの出オチ映画だと思ってナメてかかると、中盤で足元を救われます。 S県暑海(あつみ)市を守るために立ち上がる人々の姿が、無駄に熱いのです。
特に、謎のキャラクター「マッチョ」の存在感。 彼が登場するたびに画面の圧が変わり、ストーリーの整合性などどうでもよくなります。 そして、クラウドファンディングで集まったという大量のサメ(出資者へのリターン)が画面を埋め尽くすシーン。 そこには「この映画を作りたいんだ!」という、狂気にも似た情熱が渦巻いていました。 気がつけば、安っぽいCGのサメを応援している自分がいる。 悔しいですが、完全に負けました。
狂気を支える「クラウドファンディング」という名の共犯関係
本作を語る上で外せないのが、制作費を募ったクラウドファンディングの存在です。 この映画は、監督一人の狂気ではなく、数多くの「共犯者」たちによって支えられています。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 脚本のぶっ飛び度 | 計測不能 |
| 映像クオリティ | Z級(褒め言葉) |
| サメの出現率 | 過多 |
【解説】 通常、映画における「チープさ」はマイナス要素です。 しかし本作においては、そのチープさこそが「味」であり、支援者たちが愛した部分でもあります。 432匹のサメが登場するという「サメマシマシプラン」など、リターン設計からして狂っています。 画面の端々に映るサメ一匹一匹に、誰かの「この映画を世に出したい」という想いが乗っていると思うと、 どんなに酷い合成映像でも、現代アートのように見えてくるから不思議です。 これは、観客も巻き込んだ壮大な「お祭り」なのです。 冷静に見れば評価に値しない映像も、この文脈を理解すると、愛おしくてたまらなくなります。
視聴後の「謎の爽快感」について
見終わった後、頭に残るのは「結局、何だったんだ?」という疑問符だけです。 ストーリーに教訓などありません。 伏線回収も、あるようでないようなものです。 しかし、なぜか心が軽い。
日々の仕事で溜まったストレスや、人間関係の悩み。 そういった高尚な悩みが、温泉シャークの前では無力化されます。 「世の中、こんなにバカなことを真剣にやっていいんだ」 そんな許しを得たような、奇妙な開放感。 高級なフランス料理を食べた後の満足感ではなく、 深夜にカップ焼きそばをマヨネーズたっぷりで食べた後のような、背徳的な多幸感に包まれます。 誰かと語り合いたいかと言われれば、「観なくていいよ」と言いたくなりますが、 心の中では「俺は好きだけどね」とニヤリとしてしまう。 そんな、自分だけの秘密基地のような映画になりました。
特撮愛と「地域おこし」の奇跡的な融合
舞台となった熱海市(作中は暑海市)の風景が、意外にも美しく撮られています。 温泉街の湯気、昭和レトロな街並み。 それらが、サメという異物と組み合わさることで、シュールな化学反応を起こしています。
本来、怪獣映画やパニック映画は、都市を破壊するカタルシスを描くものですが、 本作は「温泉地を守る」という、非常にドメスティックな戦いです。 配管を通って移動するというサメの設定も、温泉地ならではのアイデアで、 「予算がないなら知恵を使え」というB級映画の精神が遺憾なく発揮されています。 また、特撮セットのミニチュアワークにも、作り手の愛が溢れています。 CG全盛の時代にあえてアナログな手法を混ぜ込むことで、 特撮ファンなら思わず唸ってしまうような「懐かしさ」を演出している点も見逃せません。 ただの悪ふざけに見えて、実は日本の特撮文化へのリスペクトが根底に流れている。 だからこそ、これほどまでに愛される作品になったのでしょう。
結論:IQを捨てて、温泉に飛び込め
「映画に感動を求めている人」「時間を無駄にしたくない人」。 そんな人は、今すぐ回れ右をして、アカデミー賞受賞作でも観てください。 この映画は、あなたにとって有害です。
しかし、「最近、頭を使いすぎている人」「理屈抜きで笑いたい人」。 そんなあなたには、最高の特効薬になります。 サメが温泉から出る。 その一点突破の潔さに身を委ね、思考停止の快楽に浸ってください。 65点。 映画としての完成度は低いですが、その志の高さ(低さ?)に敬意を表して。 見終わった後は、無性に温泉に行きたくなるか、二度と入りたくなくなるかのどちらかです。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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