映画『サマータイムマシン・ブルース』ネタバレなし感想・評価|「昨日」を変えるために、僕らは全力で走る【レビュー】
「サマータイムマシン・ブルース」ネタバレなし感想・評価。壊れたクーラーのリモコンを取り戻すためだけにタイムマシンを使う、史上最もスケールの小さいSF傑作。伏線回収の快感と、愛すべき大学生たちの青春。
リモコンのために時をかける、人類史上最小の冒険
タイムトラベル。 それは本来、過去の過ちを正したり、歴史的偉人を救ったり、世界の崩壊を止めたりするために使われるものです。 しかし、この映画の目的は一つ。 「昨日壊れたクーラーのリモコンを取ってくること」。
灼熱の部室。壊れたリモコン。汗だくのむさ苦しい大学生たち。 そこに突如現れたタイムマシン。 「これを使って昨日に戻り、壊れる前のリモコンを持ってくればいいんじゃね?」 このあまりにもIQの低い、しかし切実な動機から始まる物語が、まさかあんなにも複雑怪奇で、美しいパズルになるとは。
「何もしない」ができない、愛すべきバカたち
瑛太、上野樹里、ムロツヨシ、真木よう子。 今や主役級の役者たちが、まだ初々しい(そして最高にアホな)大学生を演じています。 特にムロツヨシの「得体の知れない先輩感」は、この頃から完成されています。
彼らが「過去を変えたら現在が消滅するのでは?」というタイムパラドックス理論に気づき、 慌てて「昨日の整合性」を合わせようと奔走する姿は、滑稽でありながら、どこか哲学的ですらあります。 全力で「何もしなかったこと」にするために汗をかく。 この無駄なエネルギーこそが、青春そのものです。
脚本の魔術:パズルのピースがハマる快感
この映画の真骨頂は、ヨーロッパ企画・上田誠による脚本の精巧さにあります。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 脚本 | 芸術的な伏線回収 |
| 映像美 | 日本の夏の空気感そのもの |
| テンポ | 加速するドタバタ劇 |
【解説】 前半、何気なく映り込んでいた「違和感」。 部室の隅にあったもの、誰かの不審な行動、不可解な音。 それら全てが、後半のタイムトラベルによって「あ、お前だったのか!」と氷解していきます。 このアハ体験が気持ちよすぎる。 無理やりな辻褄合わせではなく、ピタッ、ピタッとハマっていく快感は、極上のミステリーを読んだ後のような爽快感を残します。
「ヴィダルサスーン」が頭から離れない後遺症
観終わった後、あなたは間違いなくシャンプーの銘柄「ヴィダルサスーン」を検索したくなります。 そして、銭湯に行きたくなります。 さらに、コーラを飲みたくなります。
日常の些細なアイテムが、タイムトラベルの重要なキーアイテムとして機能しているため、 映画を見終わった後の景色が少しだけ違って見えるのです。 「あ、今リモコン落としたけど、これ未来の俺が拾いに来るかな?」 そんな妄想をしてしまうほど、この映画の世界観は日常に侵食してきます。
音響と空気感:まとわりつく「暑さ」
映像から「湿度」と「温度」が伝わってきます。 セミの鳴き声、扇風機の回る音、汗で張り付くTシャツ。 日本の夏の不快な暑さがリアルに描かれているからこそ、 「クーラーのリモコン」というあまりにも小さな目的が、至上の命題として説得力を持つのです。
この「暑さ」の演出がなければ、彼らの必死さは伝わらなかったでしょう。 観ているだけで喉が渇く映画です。
多角的な分析:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』へのアンサー
タイムトラベル映画の金字塔『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が「冒険」なら、 本作は「日常」です。 デロリアンではなく、古ぼけたタイムマシン。 マーティのような英雄ではなく、SF研のボンクラたち。
しかし、描いているテーマは普遍的です。 「過去は変えられないかもしれないが、未来は今の自分たちが作る」。 そんな高尚なメッセージを、**「カッパ様」や「ヴィダルサスーン」**で包み込んで届けてくれる。 これぞ、日本映画が誇るべき「B級精神の最高峰」です。
結論:夏が来るたびに観返したくなる、青春のバイブル
伏線回収が大好物な人、くだらないことで笑いたい人は、絶対に観てください。 人生で最も有意義な107分になります。
逆に、「壮大なSFスペクタクル」を期待する人には、あまりに世界が狭すぎて窒息するかもしれません。 でも、その狭い部室の中で起きていることこそが、宇宙の真理なのかもしれません。 (言い過ぎました)
とりあえず、リモコンは大切に扱いましょう。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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