映画『フィッシュストーリー』ネタバレなし感想・評価|売れないパンクバンドの絶叫が、時を超えて地球を救う【レビュー】
「フィッシュストーリー」ネタバレなし感想・評価。伊坂幸太郎×中村義洋。1975年の売れないバンドの曲が、巡り巡って2012年の地球滅亡を救う?バラバラな時系列が一つに繋がる瞬間のカタルシスは必見。
誰にも届かなかった叫びが、世界を変えるバタフライ・エフェクト
「いい曲なんだけど、早すぎたんだよ」 そう言われて解散していった、1975年のパンクバンド「逆鱗」。 彼らが最後のレコーディングで叩きつけた一曲『FISH STORY』。 無音部分に込められた叫び、意味不明な歌詞。 当時、誰の心にも響かず、レコードはワゴンセールで埃を被った。
しかし。 その曲は死んでいなかった。 1982年、2009年、そして2012年。 時代を超えて、その曲は「誰か」の運命を少しだけ変え、その「誰か」がまた別の「誰か」を救う。 そして最後には――地球に迫る巨大彗星へと繋がっていく。
「風が吹けば桶屋が儲かる」を、壮大なスケールとパンクロックで描いた、奇跡のような法螺話です。
伊坂幸太郎原作の映像化として「正解」
伊坂幸太郎の小説特有の「一見関係ないエピソードが、最後に見事に収束する」構成。 これを映像にするのは至難の業ですが、中村義洋監督は見事にやってのけました。
気弱な大学生、正義の味方になりたいコック、フェリーに乗った女子高生。 バラバラな点と点が、音楽という線で結ばれていく過程は、見ていて鳥肌が立ちます。 「あ、そこがそうなるの!?」という驚きの連続。 パズルが完成する瞬間の快感は、ミステリー映画以上です。
音楽が「主役」として機能している稀有な例
本作において、バンド「逆鱗」が演奏する楽曲『FISH STORY』は、単なるBGMではありません。 物語のエンジンそのものです。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 脚本 | 構成力が神がかっている |
| 映像美 | 各時代の空気感の再現が見事 |
| 音楽 | 斉藤和義プロデュースのガチ名曲 |
【解説】 実際に高良健吾らが演奏し、斉藤和義がプロデュースした楽曲の強度が素晴らしい。 「1975年当時のパンク(セックス・ピストルズ以前)」という設定に説得力を持たせる、粗削りだけど魂を揺さぶるサウンド。 この曲がカッコよくなければ、映画全体の説得力が崩壊します。 しかし、彼らの演奏シーンには、「これを届けたい」という切実な熱量があり、観客(私)は心の中でモッシュを始めざるを得ませんでした。
森山未來という「身体能力お化け」
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、2012年のパートで登場する森山未來。 彼の身体能力と演技力が、この映画の「フィクションとしての説得力」を一段階引き上げています。 「正義の味方」という、ともすれば寒くなる役柄を、彼が演じることで「実在するかもしれない」と思わせてしまう。 あのアクションシーンだけでも、チケット代(配信代)の元は取れます。
視聴後の「無駄なことはない」という希望
人生、うまくいかないことだらけです。 努力は報われないし、叫びは誰にも届かない。 「逆鱗」のメンバーもそうでした。 しかし、この映画を見終わった後、こう思えるようになります。 「今のこの苦しみも、いつか誰かを救う何かに繋がっているのかもしれない」
そんな青臭い希望を、斜に構えた評論家(私)にも信じさせてしまう。 それがこの映画の持つパワーです。
多角的な分析:セッション映画としての側面
本作は、異なる時代の人間たちが、時間差で一つの曲を奏でる「セッション映画」とも言えます。 1975年のレコーディング、1982年のカセットテープ、2009年のネット配信。 メディアは変われど、音楽は劣化せずに伝播していく。 芸術の持つ「時間超越性」を、説教臭くなく、エンターテインメントとして描き切った点は高く評価されるべきです。
結論:伏線回収マニアと音楽好きは必修科目
「すべての出来事には意味がある」と信じたい人、ロックンロールに魂を売った人。 今すぐ再生ボタンを押してください。 ラストシーンで流れるエンドロールまで含めて、一つの作品です。
逆に、**「リアルなドキュメンタリーが好きで、ご都合主義が許せない人」**には、 「そんな偶然あるわけないだろ」と鼻につくかもしれません。 でも、その「ありえない偶然」を信じるのが、映画という魔法ではないでしょうか。 届くぜ、誰かに。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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