映画『ザ・ルーム』ネタバレなし感想・評価|「駄作界の市民ケーン」と呼ばれる伝説の虚無【レビュー】
映画『ザ・ルーム』ネタバレなし感想・評価。史上最低の映画としてカルト的人気を誇る伝説の作品。意味不明な脚本、棒読みの演技、唐突なキャッチボール。なぜ人はこの映画に魅了されるのか?
"Oh, hi Mark."
このセリフを聞くためだけに、99分を費やす価値があります。 映画史において「最低」と呼ばれる作品は数あれど、本作はその頂点に君臨し続けています。
監督、脚本、製作、主演、トミー・ウィゾー。 謎の長髪、謎のアクセント、謎の演技プラン。 彼が作り出したのは、ただの「下手な映画」ではありません。
人間の会話、感情、因果関係、物理法則。 それら全てが、我々の知る世界とは微妙にズレている「異次元のドラマ」です。
あらすじを説明するのは不可能です。 「銀行員のジョニーが、婚約者のリサに裏切られる話」 一応そうなんですが、そんな言葉では何も伝わりません。
唐突に始まるキャッチボール。意味もなくタキシードを着てアメフトをする男たち。 回収されない母親の病気設定。 そして、不必要なほど長く、全くセクシーではないベッドシーン(R&Bバラード付き)。
画面に映るすべての要素が、「なぜ?」という問いを投げかけてきます。
意図せざるシュールレアリスム
この映画の恐ろしいところは、トミー・ウィゾーが本気で「テネシー・ウィリアムズのような傑作戯曲」を作ろうとしていたことです。 ウケ狙いでも、風刺でもありません。純度100%の真剣勝負。 だからこそ、完成したものがこれほどまでに歪で、滑稽で、どこか悲しいのです。
登場人物たちは、まるで宇宙人が「地球人の生活」をシミュレーションしているかのような会話をします。 「ハハハ、面白い話だね、マーク」 感情のない笑い声。直後の真顔。 情緒不安定というレベルを超えた、情緒の崩壊。
これはもはや、アバンギャルド・アートです。 ダリやピカソが目指した地平に、トミー・ウィゾーは事故でたどり着いてしまったのです。
映画の教科書(反面教師として)
本作は、映画作りを志す人にとって最高の教科書です。 「やってはいけないこと」が全て詰まっているからです。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 脚本 | 支離滅裂 |
| 演技 | ロボット以下 |
| 演出 | 狂気 |
【解説】 特に脚本の構成力(の無さ)は特筆に値します。 伏線は張るが回収しない。新しいキャラクターが唐突に現れて、唐突に消える。感情の繋がりがない。 これらを分析することで、逆に「物語とは何か」「リアリティとは何か」を深く理解することができます。 優れた映画を100本見るより、この1本を見たほうが「映画の構造」が分かるかもしれません。
視聴後の「仲間意識」
『ザ・ルーム』を見終わった人は、一種の秘密結社の一員になります。 世界中のファンが、上映会でスプーンをスクリーンに投げつけ(作中の謎のスプーンの額縁へのオマージュ)、セリフを合唱します。
この映画体験は、単なる鑑賞を超えた「儀式」です。 「あそこ、意味わかんなかったよね」 「あのシーンのトミーの顔、ヤバかったよね」 そんな会話を共有できる喜び。
完璧な映画にはない、「ツッコミ代(しろ)」という余白が、人々を繋げるのです。 ある意味、完璧なコミュニケーション・ツールと言えるでしょう。
技術面:なぜ屋上が合成なのか
本作の謎の一つに「屋上のシーン」があります。 彼らは頻繁に屋上で会話をするのですが、その背景が明らかに安っぽい合成(グリーンバック)です。 しかし、撮影現場には実際の屋上があったそうです。
なぜ本物の屋上で撮らず、わざわざ駐車場にセットを組み、偽の景色を合成したのか? トミー・ウィゾーの美学なのか、狂気なのか。 その不自然な光の当たり具合が、作品全体の「現実味のなさ」を加速させています。
技術的な選択ミスすらも、奇跡的に作品のトーン(不気味さ)に貢献しているのです。
多角的な分析:『ディザスター・アーティスト』との併せ技
本作を観た後は、その製作過程を描いた映画『ディザスター・アーティスト』を必ず観てください。
なぜこんな怪作が生まれたのか。トミー・ウィゾーとは何者なのか。 その舞台裏を知ることで、『ザ・ルーム』は単なる「クソ映画」から、「一人の男の孤独と情熱の物語」へと昇華されます。 (それでも映画自体の出来は酷いままですが)
「才能がなくても、情熱と金があれば映画は作れる」 その事実は、多くのクリエイターに勇気と、それ以上の恐怖を与えます。
結論:Sランクの「ゴミ」
点数をつけるなら15点です。 しかし、ランクは文句なしの「S」です。
歴史に残るレベルの「体験」がここにあります。
人生観が変わるかどうかは保証しませんが、「映画」というものの定義は確実に揺らぎます。 さあ、あなたもトミーの世界へようこそ。スプーンを用意して。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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