映画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』ネタバレなし感想・評価|見た目で判断するな、死ぬぞ【レビュー】
映画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』ネタバレなし感想・評価。親切な田舎者が、偏見まみれの大学生に殺人鬼と勘違いされる!すれ違いが生むスプラッター・コメディの傑作。
偏見は、チェーンソーより人を傷つける
森の奥の小屋。不気味な二人組の男。遊びに来た大学生グループ。 ホラー映画の「あるある」を詰め込んだ設定から、この映画は始まります。 「ああ、またこれか」 そう思ったあなた、その予断こそが、この映画のテーマです。
タッカーとデイル。 彼らは、ただの親切で気のいいおじさんたちです。見た目がちょっと薄汚くて、無骨なだけ。 彼らの願いは、買ったばかりの別荘(ボロ小屋)を直して、のんびり釣りをすること。
しかし、都会から来た大学生たちは勝手に思い込みます。 「あいつらは殺人鬼だ!」 「俺たちを殺そうとしている!」
この壮大な「勘違い」が、血みどろの惨劇を生んでいきます。 タッカーたちが親切にすればするほど、学生たちはパニックになり、勝手に自滅していく。
(なんでそっちに逃げるんだ!) (それは罠じゃない、ただの道具だ!)
叫びたくなるようなすれ違いの連続。笑っていいのか、怖がればいいのか。 感情のジェットコースターに、開始15分で振り落とされそうになります。
「勝手に死んでいく」という新ジャンル
通常のホラー映画では、殺人鬼が若者を殺します。 しかし本作では、若者が勝手に死にます。 タッカーとデイルは何もしていません。
ただ立っていただけなのに、学生が躓いて木材破砕機に飛び込んだり。 蜂から逃げようとして、自ら杭に刺さりにいったり。 その死に様があまりにもピタゴラスイッチ的で、不謹慎ながら爆笑してしまいます。
「お前ら、自殺しに来たのか?」 タッカーのこの台詞が、すべてを物語っています。 加害者がいないのに、死体の山が築かれていく。 これはホラーの皮を被った、極上のアンジャッシュ(すれ違いコント)です。
脚本の巧みさと、社会風刺
単なるドタバタコメディではありません。 脚本が驚くほど緻密に練られています。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 脚本 | 伏線回収が見事 |
| 演技 | 誤解される天才 |
| グロ度 | 意外とガチ |
【解説】 序盤の何気ない会話やアイテムが、後半でしっかりと効いてきます。 「見た目で人を判断してはいけない」という道徳的なメッセージを、スプラッターという最も不道徳な手法で説く。その皮肉な構造が素晴らしい。 タッカーとデイルの友情描写も熱く、見終わった後には彼らのことが大好きになっているはずです。(学生たちのことは大嫌いになりますが)
視聴後の「爽快感」と「反省」
スプラッター映画を見た後とは思えない、不思議な爽快感があります。 それは、タッカーとデイルという愛すべきキャラクターが、理不尽な状況でも互いを信じ、生き抜こうとする姿に心を打たれるからでしょう。
そして同時に、自分の中にある「偏見」にも気づかされます。 もし森で彼らに会ったら、私も逃げていたかもしれない。彼らの優しさに気づけただろうか? そんな自問自答をしながらも、思い出すのは学生たちの間抜けな死に様。やはり笑いが勝ちます。
罪悪感と笑いが入り混じる、複雑なデトックス効果があります。
美術と特殊効果:リアルだからこそ笑える
低予算映画に見えますが、ゴア表現(血糊や内臓)のクオリティは高いです。 中途半端に嘘っぽいと、コメディとしてのキレが悪くなります。
「痛そう!」「汚い!」と本能的に感じるリアルさがあるからこそ、その状況のバカバカしさが際立つのです。 木材破砕機のシーンの「赤」の鮮やかさは、トラウマ級でありながら、どこか芸術的ですらあります。
多角的な分析:「ジェイソン」視点の逆転
『13日の金曜日』のジェイソンや、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス。 彼らも実は、ただ静かに暮らしたかっただけなのかもしれない。 勝手に若者たちが騒いで、敷地に入ってきて、自滅していったのを、我々が勝手に「殺人鬼」と呼んでいるだけなのかもしれない。
そんな「視点の逆転」を提供してくれる本作は、ホラー映画史に対する批評でもあります。 ジャンル映画のお約束(クリシェ)を熟知しているからこそできる、愛のある破壊。 映画好きであればあるほど、ニヤリとする小ネタが満載です。
結論:ホラーが苦手な人にこそ
グロテスクな描写はありますが、本質はハートフル・コメディです。
「ホラーは怖くて見られない」という人にこそ、この映画を勧めます。 幽霊も悪魔も出ません。一番怖いのは「思い込み」と「偏見」を持った人間だという、非常に教育的な映画だからです。
ただし、食事中に見るのはやめましょう。 木材チップと血しぶきが舞うシーンで、食欲は確実に失せます。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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