映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
これは映画ではない。前作を崇拝したファンに対する、監督からの冷ややかな「説教」だ。
カリスマの「死」
前作『ジョーカー』は社会現象になりました。 アーサー・フレックという孤独な男が、悪のカリスマへと変貌するカタルシス。 多くの観客が彼に共感し、熱狂しました。 私もその一人でした。 あの階段を踊りながら降りてくるシーンに、不謹慎ながらも高揚感を覚えたのです。
しかし、続編である本作は、その熱狂に冷や水を浴びせます。 いや、冷や水どころか、汚水をぶっかけてきます。 「お前らが持ち上げたジョーカーなんて、ただの妄想だ」と。 監督は意図的に、アーサーを惨めで、弱く、救いのない存在として描き続けました。 前作のカタルシスを期待した観客は、梯子を外され、コンクリートの地面に叩きつけられます。 (正直、ここまで観客をコケにする映画も珍しいです)
なぜ歌うのか? 今、そこで?
そして最大の問題は「ミュージカル」です。 レディー・ガガを起用した以上、歌わせたいのは分かります。 しかし、シリアスな法廷劇や、精神病院での重苦しいシーンの最中に、唐突に始まる妄想ミュージカル。 これが物語の緊張感を、これでもかというほど削ぎ落とします。
「今、歌ってる場合か?」 観客の心が離れていく音が、劇場内に響き渡るようです。 歌唱力は素晴らしいし、映像も美しい。 でも、それは「ジョーカー」に求めていたものではありません。 物語が進まないまま、歌と踊りを見せられる時間は、拷問に近いものがありました。
意図的な「失敗作」というテロリズム
さて、なぜトッド・フィリップス監督はこんな映画を作ったのでしょうか。 これは、彼なりの「自爆テロ」なのかもしれません。
前作の影響で、ジョーカーを「弱者の代弁者」として神格化する動きが世界中で起きました。 監督はそれに恐怖、あるいは嫌悪感を抱いたのではないでしょうか。 だからこそ、続編で徹底的にアーサー・フレックという男の「弱さ」と「惨めさ」を露呈させ、観客の幻想をぶち壊そうとした。 そう考えれば、この映画の構成にも納得がいきます。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 演技 | Sランク |
| 脚本 | Eランク |
| ファン心理 | 逆撫で |
【解説】 ホアキン・フェニックスの演技は、相変わらず神懸かっています。 骨が浮き出るほど痩せこけた肉体、虚ろな目。 彼がそこにいるだけで、画面が張り詰めます。 だからこそ、脚本の「説教臭さ」が悔やまれるのです。 エンターテインメントとして昇華する努力を放棄し、監督の思想を垂れ流す道具にされてしまったアーサーが不憫でなりません。
レディー・ガガの「無駄遣い」
ハーレイ・クイン(リー)を演じたレディー・ガガ。 彼女の存在感もまた、本作の大きな期待要素でした。 しかし、彼女のキャラクター造形もまた、中途半端です。
アーサーを愛しているのか、それとも「ジョーカー」という偶像を愛しているのか。 その曖昧さが物語のキーではあるのですが、彼女の行動原理が掴みきれず、感情移入ができません。 歌のシーン以外では、彼女の魅力が十分に活かされていないように感じました。 「ガガ様が出ているから」という理由で観に行くと、肩透かしを食らいます。
法廷劇としての「退屈さ」
映画の大半は、法廷でのやり取りに費やされます。 しかし、その法廷劇が驚くほど退屈です。 前作の振り返りや、責任能力の有無についての議論が延々と続きます。 前作の映像を使い回すシーンも多く、「総集編を見せられているのか?」と錯覚するほど。
そして訪れる結末。 それは、ある意味でリアルかもしれませんが、フィクションとしての面白さを完全に放棄したラストでした。 劇場を出る観客たちの、お通夜のような沈黙が全てを物語っていました。
結論:ジョーカーは1作目で完結している
この映画は存在しなくてよかった。 前作の美しいラストシーンを汚されたくない人は、本作を「なかったこと」にするのが賢明です。
30点。 ホアキンとガガの才能には敬意を表しますが、映画としては「ファンへの背信行為」と言わざるを得ません。 カリスマのジョーカーを期待しているなら、絶対に観てはいけません。 これは、ただの可哀想な男のドキュメンタリーであり、監督から観客への「お前らは間違っている」という説教です。 私は、映画館に説教をされに行ったのではありません。
作品情報

小林 祐太
TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。
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