HOME/CINEMA/ 2025-12-20

映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

これは映画ではない。前作を崇拝したファンに対する、監督からの冷ややかな「説教」だ。

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SCORE
RANKD

60秒で結論買うべき?観るべき?

GOOD

ホアキン・フェニックスの演技力だけは相変わらず神

BAD

ミュージカルシーンが物語のテンポを殺し続ける

カリスマの「死」

前作『ジョーカー』は社会現象になりました。 アーサー・フレックという孤独な男が、悪のカリスマへと変貌するカタルシス。 多くの観客が彼に共感し、熱狂しました。 私もその一人でした。 あの階段を踊りながら降りてくるシーンに、不謹慎ながらも高揚感を覚えたのです。

しかし、続編である本作は、その熱狂に冷や水を浴びせます。 いや、冷や水どころか、汚水をぶっかけてきます。 「お前らが持ち上げたジョーカーなんて、ただの妄想だ」と。 監督は意図的に、アーサーを惨めで、弱く、救いのない存在として描き続けました。 前作のカタルシスを期待した観客は、梯子を外され、コンクリートの地面に叩きつけられます。 (正直、ここまで観客をコケにする映画も珍しいです)

なぜ歌うのか? 今、そこで?

そして最大の問題は「ミュージカル」です。 レディー・ガガを起用した以上、歌わせたいのは分かります。 しかし、シリアスな法廷劇や、精神病院での重苦しいシーンの最中に、唐突に始まる妄想ミュージカル。 これが物語の緊張感を、これでもかというほど削ぎ落とします。

「今、歌ってる場合か?」 観客の心が離れていく音が、劇場内に響き渡るようです。 歌唱力は素晴らしいし、映像も美しい。 でも、それは「ジョーカー」に求めていたものではありません。 物語が進まないまま、歌と踊りを見せられる時間は、拷問に近いものがありました。

BEYOND THE 60 SECONDSここから先は、深掘りレビュー。
Technical Review

意図的な「失敗作」というテロリズム

さて、なぜトッド・フィリップス監督はこんな映画を作ったのでしょうか。 これは、彼なりの「自爆テロ」なのかもしれません。

前作の影響で、ジョーカーを「弱者の代弁者」として神格化する動きが世界中で起きました。 監督はそれに恐怖、あるいは嫌悪感を抱いたのではないでしょうか。 だからこそ、続編で徹底的にアーサー・フレックという男の「弱さ」と「惨めさ」を露呈させ、観客の幻想をぶち壊そうとした。 そう考えれば、この映画の構成にも納得がいきます。

評価項目評価
演技Sランク
脚本Eランク
ファン心理逆撫で

【解説】 ホアキン・フェニックスの演技は、相変わらず神懸かっています。 骨が浮き出るほど痩せこけた肉体、虚ろな目。 彼がそこにいるだけで、画面が張り詰めます。 だからこそ、脚本の「説教臭さ」が悔やまれるのです。 エンターテインメントとして昇華する努力を放棄し、監督の思想を垂れ流す道具にされてしまったアーサーが不憫でなりません。

レディー・ガガの「無駄遣い」

ハーレイ・クイン(リー)を演じたレディー・ガガ。 彼女の存在感もまた、本作の大きな期待要素でした。 しかし、彼女のキャラクター造形もまた、中途半端です。

アーサーを愛しているのか、それとも「ジョーカー」という偶像を愛しているのか。 その曖昧さが物語のキーではあるのですが、彼女の行動原理が掴みきれず、感情移入ができません。 歌のシーン以外では、彼女の魅力が十分に活かされていないように感じました。 「ガガ様が出ているから」という理由で観に行くと、肩透かしを食らいます。

法廷劇としての「退屈さ」

映画の大半は、法廷でのやり取りに費やされます。 しかし、その法廷劇が驚くほど退屈です。 前作の振り返りや、責任能力の有無についての議論が延々と続きます。 前作の映像を使い回すシーンも多く、「総集編を見せられているのか?」と錯覚するほど。

そして訪れる結末。 それは、ある意味でリアルかもしれませんが、フィクションとしての面白さを完全に放棄したラストでした。 劇場を出る観客たちの、お通夜のような沈黙が全てを物語っていました。

結論:ジョーカーは1作目で完結している

この映画は存在しなくてよかった。 前作の美しいラストシーンを汚されたくない人は、本作を「なかったこと」にするのが賢明です。

30点。 ホアキンとガガの才能には敬意を表しますが、映画としては「ファンへの背信行為」と言わざるを得ません。 カリスマのジョーカーを期待しているなら、絶対に観てはいけません。 これは、ただの可哀想な男のドキュメンタリーであり、監督から観客への「お前らは間違っている」という説教です。 私は、映画館に説教をされに行ったのではありません。

作品情報

時間138分
視聴難易度
家族向け要確認
配信Theater
小林 祐太
WRITTEN BY

小林 祐太

TV60編集長。脚本構造と映像技術の分析に基づいた『構造批評』を得意とする。ガジェットレビューでは、スペック数値よりも『生活への定着度』を重視し、最低1ヶ月以上の実使用を経た上での評価を徹底している。

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